もともとは、ハリウッドの歴史を変えた一本だから絶対に見るべしと、シナリオ学校で某脚本家の人に勧められて見た。
というのは、それまでのハリウッド映画というのは、ホントに夢の世界だったのだ。
実際に当時ハリウッドは“夢の工場”と呼ばれていたし、誰もが憧れるような美男美女がこの世のものとは思えないような出逢いをして、夢のような恋をする。
まさに庶民の憧れを描いたのが、昔のハリウッド映画だったわけである。
しかし、この「マーティ」を境にして、そんなハリウッド映画の歴史が変わったというのだ。
ちなみに、物語はモテない男・マーティの“ボーイ・ミーツ・ガール”もの。
主人公のマーティは、ニューヨークの精肉店で働く34歳の独身男。兄弟はとっくに結婚し、母親と二人暮らし。
というわけで、母親には毎日のように「早く結婚しなさい」と言われる日々。
それどころか精肉店のお客さんにも「兄弟は結婚して、もう子供もいるというのに、なぜ独身なの。この甲斐性なし」と言われる始末。
それなのに、どうしてマーティは独身なのか。答えはカンタン、彼はブ男なのだ。
しかもデブときた。
それで、母親は彼に「土曜日だというのに、家でくすぶっているつもりかい。ダンス・パーティにでも行ったらどうだい」と勧めるけど…。
「もうダンスに行って、女の子を追いかけるのも疲れたよ。行ったって、誰も僕には目もくれない。僕はモテないのさ、フラれるのは毎度のことで、傷つきあきたよ。どんなスーツを着たって、僕はブ男でデブなのさ」と、マーティ。
でも、その夜のダンス・パーティで、同じく自分の容姿に自信がないクララという女性とふとしたことで出逢うわけですな、これが。
「僕の父親もブ男だった。でも、母はそんな彼を愛していた。結婚に大事なのは、容姿じゃない」と、意気投合。
遅くまでふたりでおしゃべりして、今度映画に行くことを約束。翌日マーティから電話することを告げてその夜は別れる。
ところが、ちょうどその頃、伯母さんが精肉店に引っ越してくることになったりして、マーティの周りでいろいろとあるんですわ。
そんななか、母親も親友もクララのことをあまりよく思ってないことを知って、心優しいマーティは…。
とにかく見終わってビックリ。
実はこの映画って1955年のものなんだけど、それを感じさせない“普遍性”というとややこしいハナシになりそうだけど、その等身大の生活感というか「生活臭」のする映画だった。
うむ、半世紀以上も前にこんな映画があったとは、感動もの。
たぶん現代風にリメイクしてもきっとそのまんま“いま”でも通じる物語なんだろう。そういう意味でも、普遍的なんだけどね。
ちなみに主人公のマーティを演じたアーネスト・ボーグナインというのが、みのもんたにジャック・ニコルソンの眉毛を移植したような人でして、なんとも庶民的。
で、思い出すのが、ドラマ「男女7人夏物語」の大沢貞九郎(片岡鶴太郎)。
モテない人というあたりからも、かなりイメージが近い。そりゃ貞九郎のほうがトレンディ(ホンマに死語やな)だけどね。
というわけで、ナニも考えずに見るとたぶん「あっけない」かもしれないけど、モテなくて、寂しい思いをしているときだったら、絶対に涙モノ。
そういう人にしか分からない“痛み”がいろいろと見え隠れする映画でもある。
また、物語はモテない男のハナシだけど、いまの自分よりちょっと違う自分になりたい男のハナシでもあった。このままでは満足できないと背伸びして、一歩先の世界を目指したというか、そんな感じ。
そのうえで、時代背景なんかを考えると、絶対に押さえておきたい一本。
なんでも映画界的には「16mm即興撮影」といった斬新な演出法をハリウッドにもたらした映画なんだとか。
いや、それ以前にモテない男というのは、時代が違っても、同じような悩みと痛みをいつも抱えているんだなと思った。